浅田次郎 「日輪の遺産」
読みました。
レガシーというタイトルで海外でも出版されてるらしいです。
ベストセラー「蒼穹の昴」の原点で幻の近代史ミステリー。
第二次世界大戦末期、帝国陸軍がマッカーサーから奪った時価200兆円の財宝をめぐるお話。
大戦時、米軍らから財宝を隠そうとしている陸軍らの視点
現代にてその財宝の存在を知り、在り処そしてそれを隠した人たちの行方を探る人らの視点
この二つの視点での話が交互の展開されていく流れ。
無論、最後はクロスオーバーで全てが解き明かされるわけですね。
大変良い読み物でした。
正直序盤の部分はなんか読みにくいなあ、とも感じましたけど。
なんか読点が多いんですよね。
私は、明日、東京に、向かう、ことにした。
みたいな。いや、ここまで極端ではないんですが、
もしかしたら、強調目的だとかでわざとやっているのかもしれませんが。
国家のために命と人生を奉げた軍人と、子供たちに触れる。
そんなお話。
「そうだ、神州は不滅だ。しかし、皇軍が不敗だというわけではない。そんなことは陸軍省の参謀をつとめた貴官が、わからぬはずはなかろう。皇軍は敗ける。だが、神州は不滅だ。そう思え、真柴」
(73-74頁)
「自分は、軍隊が性に合わんのです」
「なぜだ? とてもそうは見えんぞ」
「自分勝手に死ねないからであります。お国のためとか陛下のためとか、自分の命に理由をつけられるのはたまらんのです。そうは思われませんか、少佐殿」
(109頁)
「横浜まで、どのくらいある。このポンコツでが百マイルとは走れまい」
「いえ、将軍。横浜までは二十マイルです」
「二十マイル! われわれは何というちっぽけな国と戦争をしたのだろう。信じられん。疲れが出た」
(349頁)
「私の父、アーサー・マッカーサー将軍は日露戦争の観戦武官だった。将軍は戦後、副官であった私にこう諭したものだ『いいか、ダグラス。合衆国の未来を脅かすものは、このちっぽけな東洋の帝国だ。決して油断してはならん。肝に銘じておけ』、と」
「しかし、われわれは日本に勝ちましたよ、閣下」
「そうだ。われわれは勝った。しかしこんな敗け戦、彼らの長大な歴史書の中ではほんの一行の出来事にすぎない」
(413頁)
「私が屈服させたのは、ほんの一瞬この国を支配した軍閥とおろかな政治家どもだ。そんなものはこの国の一部分でしかない。わかるか、チャーリー。日本を太古の自然が造り出したダイアモンドだとするなら、われわれは石炭だ。たしかに良く燃える。だが、われわれが焼きつくしたものは、ダイアモンドをつかのま包んでいた、価値のないパッケージにすぎない」
(413-414頁)
「君もまた多くの日本人と同様に、自分のうちに眠るおそるべき力に気付いていない。日本人の不幸は、この現実ではない。この現実を作り出したエネルギーに気付いていないことこそが不幸なのだ。良く考えてみたまえ、この東洋の、何ひとつ資源もない島国が、世界を敵に回して四年間も戦ったのだぞ」
(484頁)
「やつらは、いつかやってくるぞ。パールハーバーを飛び越し、ウエストコーストを席捲し、ロッキーを越え、砂漠を駆け抜けて、きっといつかやってくるぞ。私には見える。やつらがいつかマンハッタンを占領するさまが。エンパイヤ・ステートビルの頂きに、あのおぞましい日輪の旗印の翻る日が。くるぞ、やつらは必ず、いつか必ずやってくる――帰ろう、チャーリー。私は自由と正義のために戦わねばならない」
(502頁)
「欲がなくなったとき、こいつは宝探しの物語じゃねえと気付いたんだ。つまりな、これは国生みの神話だ」PR