綱淵謙錠 「斬」
読みました。
斬首刑の死刑執行人、山田浅右衛門(吉亮)の生涯。
時代は幕末、7代に及ぶ斬首刑執行人の最後を務めた人間の苦悩と末路の話。
死刑執行人の家系に生まれ、執行人としての鍛錬を幼い頃から行い、
齢12にして初めて斬首を執り行う主人公(吉亮)。
死刑執行人ということで、
エタやヒニンとは違えど、真っ当な侍・武士からすれば、ある種不浄の人間と扱われる。
それでも、その仕事に誇りと矜持を持ち続けるのは、生はかなことじゃないですよね。
作中で描かれる執行人としての“苦悩”というのが、
罪人とはいえ、人を殺めるということ、
それを仕事とすること……ではなく、
時代の移り変わりによって、斬首刑が廃止され、絞首刑に成り代わることで自分たちの仕事がなくなること、というものだというのが
より、死刑執行人の家系らしさを出してる気がします。
ところどころで史実を基にした解説?のような文章が入る。
最後の部分がものすごい印象的。
読後感はさぞ、ものすごいことになるだろうことは間違いない。
――しかし、と吉亮は考える。
この山田家の家職が何につぶしがきくというのか。〈斬首〉という職業の本質をいくら鋳つぶしてみても、地金として残るのは何なのか。
これほどつぶしのきかぬ仕事はないであろう。
そうとすれば、行くところまで行くしかあるまい。その先のことは、廃刑の日を迎えてから考えても遅くはないだろう。
(292頁)
「呪いだ。 山田家は呪われている」
とつぶやきながら、顔はそむけたまま、左手で定吉の差し出している首を指差していた。
指の先を眼で追ってざんぎり頭の首の主を注視していた浜田の全身が、凝然と凍結してゆくのがわかった。
(424頁)
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